地獄の“さくらんぼ”

あの頃

大塚愛の “さくらんぼ” をノリノリで歌う私。

周りは皆、下を向いたまま。

パチパチとまばらな手拍子が響く…

こんな地獄絵図を体験したのは、約10年前。

B型作業所に通いだしたとき、スタッフと話してた。

その中で私が「カラオケが好き」と話した。

すると、『○✕っていう交流センターがあるの。そこでカラオケたまにやってるよー』とのこと。

日時と場所まで教えてくれたので行ってみた。

――《なんか…暗っ…。ここで合ってんの?》

不安に思いながら、足を踏み入れた。

少し賑やかな部屋がある。

「(あっ、ここだ…) こんにちは。」

皆がサッと見る。

…そして、静まり返る。

そこには、大きなリュックに少し汚れたスニーカーという装いの、似た雰囲気の男性達が居た。

8人ぐらいが、狭い部屋の長椅子に

ひしめき合って座っている。

下を向いたまま動かない人。

リュックを背負ったまま肩のベルトをギュッと握っている人…異様な光景だった。

《ヤバ…帰りたい…》そう思いながら座る。

隣の男性が、すんごく私と距離をとる。

…シーン…

さっきまでボソボソと楽しそうに話していたのに、

私の登場でシラケてしまった。

当時、私は二十代前半。

派手なメイクと服装だった。

この場では、明らかに浮いている。

張りつめた空気の中、一人の男性が口を開く。

『…歌いましょうか…』

誰かが何かを歌ってる。

皆、歌詞とアニメの映る画面を見てまばらに手拍子。

《…なんだ、これ……》

心のツッコミが止まらない。

そして、私の番になる。

“さくらんぼ ”。今までと違い、アニメは出ない。

《すみません…》と思いながら歌ってみる。

…誰も画面を見ない。もちろん、私の事も。

パチ…パ…チ…と、部屋には切ない手拍子が。

なんとか歌いきった。

その瞬間、一人が口を開く。

【終わった。】

―その声と同時に、パチパチと…なんとも弱々しい拍手が鳴り響く。

そして

『…帰りましょうか…』

この一言で、皆そそくさと帰り支度。

一人一曲歌ったら終わりだったらしい。

――帰り道。

…すんごく、なんとも言えない気持ちになった。

“私は、あの人たちと同じなんだ” と。

違うと思ってた。

私は精神的に “いま” 少し不安定なだけ。

だから “いま” こういう場所(B型作業所)に居るだけ。

そう思っていた。本気で。

だけど…違ったみたい。

あの人達を、上から見ていた自分に気付いた。

じゃなきゃ…こんなに傷付かない。

娘が今お気に入りだという、

大塚愛の “さくらんぼ” をYouTubeで一緒に観ている。

これを聴くと、あの日の光景を思い出す。

忘れたいのに。

今では…

あの切ない手拍子を、私がしている。

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